近年、電子契約の利用率は上昇傾向にあります(※1)。
一方、電子契約についてはまだ分からないことが多く、導入に至っていない企業も多いのではないでしょうか。
「そもそも電子契約とは何か」「導入することは自社にとって本当にメリットなのだろうか」「導入後の管理は簡単にできるのか」といった疑問や不安があり、電子契約の導入に一歩踏み切れないかもしれません。
そこで本記事では、電子契約の基本情報とともに、導入後に考えられる契約管理の課題やセキュリティリスクについて解説します。
※1 参照:総務省 情報通信白書(令和3年版)
目次
電子契約とは
「電子契約」とは簡単に言うと、「紙の契約書に代わり電磁的記録によって行われる契約」のことです。
この法律において「電子契約」とは、事業者が一方の当事者となる契約であって、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により契約書に代わる電磁的記録が作成されるものをいう。
電子委任状法2条2項
書面契約(紙の契約)の場合、契約当事者は契約書の紙面に署名と押印を行い、締結の証しとします。
いっぽう電子契約では、契約内容が記載されたPDFファイルに電子署名(「署名鍵」「暗号化鍵」と呼ばれます)を記す事で、締結の証しとします。電子署名が記された電子ファイルが、書面契約でいう“契約書”にあたります。
電子契約の種類
電子契約は、電子署名のタイプのよって次の2種類に分けることができます。
- 事業者署名型(立会人型):第三者(電子契約事業者など)が、契約当事者から指定されたPDFファイルに、電子署名を付与するタイプの電子契約
- 当事者署名型:契約当事者がPDFファイルに電子鍵を使って署名するタイプの電子契約
電子契約と書面契約との違い
電子契約と書面契約の大きな違いは、当然ながら紙を使うか否かという点です。
これにより、締結方法や保管方法などが異なります。二社間契約を例に、両者の違いを一覧表にまとめました。
書面契約 | 電子契約 | |
締結方法 | 2部印刷・製本された紙の契約書を往復に送付、交互に署名・捺印を行う | オンラインで共有する1つのPDFファイルに、両社が電子署名を行う |
印紙税(収入印紙) | 印紙税法に規定された額面の収入印紙を、2部に貼付 | 免除 |
締結物の保管方法 | 書庫に保管 | サーバーに保管 |
電子契約を導入するメリット
電子契約を導入するメリットは、主に次の3つが挙げられます。
- 契約業務の負担の軽減
- コスト削減
- 容易な保管
1. 契約業務負の軽減
書面による契約には、次の作業が発生します。
- 印刷
- 製本
- 押印
- 郵送
特に複数枚の紙面の契約書の場合、ホチキス止めして袋とじする必要がありますし、袋とじで製本された契約書については、割印を押す作業も出てきます。
システム上で契約締結が可能な電子契約では、これらの作業は不要となり、契約業務的なの負担が軽減されます。
2. コスト削減
書面契約では、次のコストが発生します。
- 契約書面の印刷
- 印紙税(収入印紙)
- 郵送(配送記録が確認できるサービス)
一方、電子契約のコストは次のとおりとなります。
- 電子契約システム利用料(月額1~10万円程度)
- 電子証明書(電子契約において、電子署名をする人物が本人であるとする証書)の取得費用(2,500~7,900円)(※2)
電子契約では、書面契約に必要なコストは不要となります。
高額な取引の契約が多い企業では、電子契約で「印紙税(収入印紙)が免除」される事は、大きな費用効果が期待できます。例えば、1,500万円の工事を請け負う際、書面契約では2万円の印紙税が発生しますが、電子契約ではこれが免除されます。(※3)
※2 参照:『2. 利用に当たっての事前準備』
※3 参照:『No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで』
3. 容易な保管
一般的に紙の契約書は、施錠の利くキャビネットなどで厳重に保管します。契約書が増えてくると保管場所が拡がり、また過去の契約書を探して閲覧する事の、手間と時間が増大します。
いっぽう電子契約では、電子データの契約書をサーバーに保管するため、物理的な什器やスペースは必要ありません。また過去の契約書も、パソコンから検索してそのまま閲覧が可能となります。
電子契約は、書面契約と比べると、契約書の管理業務を確実に効率化できると言えるでしょう。
電子契約とセキュリティリスク
サーバーで契約書を管理する電子契約では、悪意ある第三者のサイバー攻撃による契約内容の漏洩や改ざんなど、セキュリティリスクに注意を払う必要があります。
サイバー攻撃とは、何者かがインターネットを利用して、特定の法人や政府機関のコンピューターシステムなどに対して行う破壊活動のことです。主なサイバー攻撃として、「ランサムウェア(データを暗号化して“人質”にとり、身代金を要求する)」や「標的型攻撃(情報窃盗などを目的に、電子メールなどを使って攻撃する)」などがあります。電子データで管理されている電子契約は、サイバー攻撃の対象になりやすいのです。
サイバー攻撃は、パスワードをだまし取ったり、ウイルスを仕込んだeメールを担当者に送ったりするなど、セキュリティの脆弱性をついて侵入しようとします。
リスク対策として、電子契約のシステムの導入を検討する際は、セキュリティに関する次に機能が搭載されているか、確認してください。
- 電子署名:電子書類に付与する署名のこと
- デジタル印鑑:電子書類に捺印する「電子印鑑」のこと
- 多要素認証(MFA):オンラインアカウントで、ログインする際に2種類以上の認証要素を求める認証方法
- 階層型セキュリティ:役職等、組織の責任階層に応じてアクセスや閲覧、編集の権限を設定する機能
- タイムスタンプ:電子書類の格納や署名の日時を証明する機能。
- 改訂履歴管理機能:電子書類を改訂する際、その内容と日時を記録する機能
- 脆弱性診断機能:電子契約で使用しているデバイスの脆弱性を診断する機能
またシステムのセキュリティだけではなく、社員の故意や過失による電子書類の漏洩や破損等、人的なセキュリティリスクについても、社内ルールの新設や研修等の対策を怠らないようにしましょう。
電子契約と契約管理の課題
電子契約と書面契約の並行管理
電子契約を導入しても、過去の契約書は「紙」として管理されています。
また導入後でも、取引先の方針で書面契約を締結するケースも発生します。
電子契約システムの外枠の課題として、過去分から現在までの契約書の「一元管理」が上がります。
「一元管理」の方法
手軽な「一元管理」の方法は、エクセルで契約書ごとのプロフィール(締結先、書類名、締結日、有効期限、担当者、契約目的、保管場所等)を記入した、検索しやすい一覧表型の台帳を作成する事ですが、この作業は基本的に手作業となるので、入力ミスやエントリー漏れ等、ヒューマンエラーのリスクが伴います。
確実な「一元管理」の方法は、「契約管理システム」を導入することです。
「契約管理システム」の主な機能は、次のとおりです。
- 電子契約の契約書ファイルを、指定した項目検索が可能
- 検索した契約書ファイルを、そのまま閲覧する事が可能
- 紙の契約書もスキャンして電子ファイルとして読み込み、電子契約の契約書ファイルと同様の取扱いが可能
- 契約書ごとの更新時期や有効期限を、事前にアラートで通知
電子契約システムと併用する事で、ヒューマンエラーが少ない、安心かつ効率的な契約書の「一元管理」が可能となります。
まとめ
電子契約は、締結までの工数とスピード感、印紙税の免除等、そのメリットだけでなく、企業のDX化推進の潮流を後押しとして受け、今後さらに普及が進むでしょう。
また法務に人手や工数を割いている企業では、電子契約システムと契約管理システムを併用する事で、契約業務を高いレベルで効率化する事が可能になります。
電子契約の導入の検討に先立ち、まずは自社の契約書締結の件数と、締結業務に係る費用と工数を洗いだしてみてはいかがでしょうか。